勝利やメダルにはしゃぐ暇に、冷静に考えるべきこと  「おもてなし」は技能実習生に

彼らは自力で米国を退散させた国民。泣き寝入りはしない
 ラグビーWカップ開幕戦で日本teamが大量得点でして勝った。東京新聞は一面で「異なるルーツ学び合い」「つながった「ワンチーム」」「・・・全員が互いを知り、補い合い、ワンチームに。その姿は、外国人労働者受け入れを進める日本社会が目指す姿でもある」といささか酩酊気味の記事をのせた。申し訳程度に、日本社会の課題を匂わせている。課題とは何か。
 

  技能実習生は28万5667人、そのうちベトナム人は13万4139人です(今年6月時点) 実習生は多額の借金をして、出稼ぎ目的で来日・・・借金を返すまで帰国できません。しかし、労働環境は深刻・・・
 Bさん(24歳男性)は富山県のコンクリート圧送会社で働いていましたが、毎日のように従業員から首を絞められたり殴られるなど暴力を振るわれました。「会社を移りたい」と申し出たら帰国を強要され、それを拒否したら宿舎から追い出されました。・・・
 Dさん(20歳女性)は福島県の食品加工会社で働いていましたが、日本人の従業員から性的虐待をうけ、妊娠・堕胎を強いられました。・・・彼女は被害を訴え出ることなく帰国しました。


 技能実習制度では、低賃金・長時間労働、賃金不払い、パワハラ、セクハラ、労働災害、強制帰国など人権侵害の例は枚挙に暇がありません。みんな本音では母国に帰りたいに決まっています。しかし、借金を返さなければ帰りたくても帰れない。
 だから、日本で働き続けるために実習先から逃げ出して失踪する子が後を絶たないのです。実習生の失踪者は年間7000人ですが、そのうち半分の3500人はベトナム人です。実習生は留学生と違ってアルバイトができないため、失踪後に路頭に迷ったり犯罪に走ってしまうケースが少なくありません。
                  『月刊日本』12月号特集「奴隷扱いされる外国人労働者」

 外国人留学生や技能実習生が増えれば、劣悪な労働や過酷な生活で追い詰められ、命を落とす若者もいる。・・・

 東京都港区の寺院「日新窟」。棚の上に、ベトナム語で書かれた真新しい位牌がぎっしりと並ぶ。2012年から今年7月末分までのもので81柱。この寺の尼僧ティック・タム・チーさんによると、その多くが、20、30代の技能実習生や留学生のものだ。今年7月には4人の若者が死亡。3人が実習生、1人は留学生で、突然死や自殺などだった。

 7月15日に自殺した25歳の技能実習生の男性は、会社や日本に住む弟、ベトナムの家族に遺書を残していた。塗装関係の仕事をしていたが、「暴力やいじめがあってつらい」とつづられていた。「寂しい。1人でビールを飲んでいる」と弟に電話があった翌日、川辺で首をつっているのが見つかった。
 6月になくなった31歳の男性の死亡診断書には、死因は「急性心機能不全症」と書かれていた。別の20代の技能実習生の男性は朝、仲間が部屋に起こしに行ったら、死んでいた。・・・

 実情に詳しい山村淳平医師(63)は、「元々健康だった20、30代の人が突然に亡くなるのは異常なこと」と話す。「十分な睡眠もとらず、過剰な労働によるストレスやプレッシャーが体をむしばんでいく」
 山村さんは3月にベトナムを訪問し、昨年末に宮城県でなくなった20代の男性の父親に会った。男性は現地のブローカーを通じ、約120万円を払って来日。結婚資金などを稼ぐためだった。送り出し団体から「心臓の病気で亡くなった」と連絡があり、遺骨が届けられたという。
 山村さんは「いびつな日本の政策の犠牲者」と感じている。「労働者としてきちんとした条件で雇うべきなのに、実習生や留学生として働かせ、結果、心と体への負担がかかっている。国は実態を把握し、予防策をとるべきだ」と話す。・・・
 外国人留学生や技能実習生の自殺や突然死の総数は明らかではないが、実習生の受け入れの支援をする民間公益法人「国際研修協力機構(JITCO)」の報告書によると、16年度に事故や病気などで亡くなった技能実習生や研修生は28人。脳・心疾患が8人で全体の約3割を占めた。
                   朝日新聞デジタル2018年10月14日「いびつな政策の犠牲者」ベトナム人実習生らの相次ぐ死←クリック

 朝日新聞デジタルの記事にある「国際研修協力機構(JITCO)」は1991年に設立された法務・外務・通産・厚労・建設の5省による共同所管団体。国を挙げて技能実習生を支援するための仕組みに見えるが、国を挙げて技能実習生を食い物にする天下り機構に過ぎない。だから技能実習生の過労死者数さえ把握していないのだ。
 法務省からの天下り役員だけで11人、検事総長を務めた男が理事長になっている。計15人の役員のうち9人が省庁OB。
  現行の外国人技能実習生の受け入れ企業は、実習生を受け入れるたびに、75000円程度をJITCOに年会費(年会費は企業等の資本金等の規模に応じて1口あたりの金額が算出される。複数の同業企業で作る管理団体からは1口10万円、団体参加の複数企業から1口5万~15万円を徴収し、それとは別に個別の企業からも1口10万~30万円)として支払う。移民拡大政策で、JITCOの“実入り”は膨張する。 JITCOの予算書を見ると、会費が17億3300万円、これが全収益の約8割を占めるから、天下り機構運営は会費に依存する。つまり弱みにつけ込む越後屋を通して延命を図る現代の悪代官の一つがJITCOである。

  外国人実習生は現在、約26万人。管理団体の数は全国に約2300。現在、農業や漁業、建設関係など6業種の受け入れ対象業種は、介護や外食、自動車整備などが加わり、14業種にまで拡充され、19年度からの5年間で約35万人を受け入れる見込みだ。JITCOの監理団体や会員企業も対象業種の拡充に比例して増え、会費収入も膨れ上がる。この仕組みが、技能実習制度を続けさせ、悲劇を放置・拡大させる。

 技能実習生たちが過酷な状況に追い込まれる根源には、政権の利権がどす黒く渦巻いている。ベトナムは自由のために自力で米国をうち破った唯一の国だ。“奴隷労働拡大”政策で官僚貴族が私腹を肥やす状況を看過することはないだろう。

 ベトナムの僧侶は自由のために焼身自殺を遂げて世界に衝撃を与えた。ベトナム人民の抵抗を日本はよく支援し報道した。またその時が、来ている。球技の馬鹿騒ぎがそれを覆い隠している。人間は興奮すれば、冷静な判断が出来ない。
 技能実習生たちは、命そのものを「日本」に奪われている。実習企業から追い出されたベトナムの若者は、年間3500人と見積もられている。その多くは実習企業にパスポートを取り上げられている。
  「暴力やいじめがあってつらい」「寂しい。1人でビールを飲んでいる」と電話した翌日首を吊る若者も「異なるルーツ学び合」う仲間の一人である。ラグビー記事の何倍もの調査報道を、連日繰り広げるべきなのだ。一体どれだけの予算をこの馬鹿騒ぎに、政府や自治体が割いているか報道したのは大分だけだ。

 「全員が互いを知り補い合うことは、外国人労働者受け入れを進める日本社会が目指す姿でもある」と記事で言っているではないか。 彼らはすでに尊厳を奪われ、何人も死んでいるのだ、いや殺されている。
 政権に操られて球技にはしゃぐその何分の一かを「寂しい。1人でビールを飲んでいる」と訴える若い外国人労働者に割いてこそ、「サムライ」「うつくしい」「クール」と枕詞をつけるに相応しいのではないか。「おもてなし」は実習生に対してこそすべきなのだ。
 おい高校生!!文化際にお化け屋敷なんか止めて、技能実習生を招待してシンポジウムぐらいしてみたらどうだ。先生も研究会に有名な学者を呼んで、話を承るのはもう止めよう。学生も実習生を訪ね歩き、医療援助や法律相談をするプロジェクトを立ち上げたらどうだ。日本の学生は暗い時代にも「セツルメント」を続けた伝統がある。

 ただのgameの勝利に酔いながら、周辺諸国へのヘイト言説に我を忘れる姿は醜悪。何が「ワンチーム」だ。

地位にも衣食にも縁が無いから、ただむつかしければ面白い

素読の初級者と、会読をする車座の二組が描かれている

 山崎闇斎の弟子たちは、彼が講釈する言葉の一言たりとも漏らさず筆記した。なぜなら闇斎は生きた聖人と見做されていたからだ。これを批判したのが、朱子学を「憶測にもとづく虚妄の説にすぎない」とした荻生徂徠である。
 「徂徠は、「予(われ)講を悪(にく)む。毎(つね)に学者を戒めて、講説を聴かざらしむ」(『訳文笠蹄初編』)と自ら述べているように、講釈嫌いである。彼は講釈の害を十項目にわたって論じているが、なかでも重要なことは、聴講者が自分で「思」うこと、考えることをしなくなってしまう点にあった。徂徠によれば、講釈する側も、「字詁・句意」「章旨・篇法」「正義・傍義」「註家の同異」「故事・佳話」「文字の来歴」など、およそ本文に関係することであれば何でも、お店を開くように並べていって、一つでも足りないところがあると、それを恥だと思うようになる。そのうえ、聴講者が飽きてしまうのではないかと心配して、美声によって喜ばせたり、時には笑い話を交えながら、居眠りなどさせまいとするのであるから、聴く者が自ら何も考えなくなってしまうのも当然である。懇切丁寧、用意周到、理解の助けによかれと老婆心ですることが、学習者にとっては逆効果となってしまう」     前田勉『江戸の読書会』平凡社
   闇斎の講釈には、今の教委が喜びそうな「良い」授業の要素が詰め込まれている。今も校長はこれらの観点に沿って、教師の授業を観察・評価する。生徒の書き入れる授業評価アンケートもそれが元になっている。
 だから高校でも大学でも、表面的な「分かりやすさ」や「やさしさ」が評価される。

 難しさを克服した時の喜びがあるからこそ、事柄の実体や本質に迫る気になる。それを避けるのは、親切面して愚民化を計ることである。

 では講釈嫌いの荻生徂徠はどのような学びを、奨励したのだろうか。徂徠(蘐園)学派では、学問は師や仲間(講習討論の友)とともにするものであった。その中心に数人で車座になって行う会読があった。素読などの基本を終えた者たちが、決められた経典(四書五経など)の章句を巡り、互いに問題を出し合い意見を戦わせるのである。

 その場で重んじられたのは、「真理を探究し明らかにするために、互いに「虚心」の状態で(父と師と君のいずれからも自由に)討論をする」ことであった。適塾でこの会読に打ち込んだ福沢諭吉は、自伝で次のように回想している。
   「・・・幾年勉強して何ほどエライ学者になっても、頓と実際の仕事に縁がない。すなわち衣食に縁がない。縁がないから縁を求めるということに思いも寄らぬ・・・名を求める気もない。名を求めるどころか、蘭学書生といえば世間に悪く言われるばかり・・・。ただ昼夜苦しんで六かしい原書を読んで面白がっている・・・自分たちの仲間に限って斯様なことが出来る。貧乏をしていても、粗衣粗食、一見看る影もない貧書生でありながら、智力思想の活発高尚なることは王侯貴人も眼下に見下すという気位で、ただ六かしければ面白い、・・・という境遇であった」『福翁自伝』
 服部之総は明治3年以降の福沢を、革新的でなくなったと言っている。ここに描かれている青年諭吉は、これを書いている福翁とは、まるで違うことは知っていた方がいい。ともあれ、こうした激しい学びの中からspeechを演説、debateを討論と訳出するに至るのである。

 この学習形態は、封建的身分制に頭を押さえつけられていた若者たちを身分を越えて惹き付けた。初め各地の私塾にそして藩校、遂には昌平黌にまで広がった。千葉卓三郎らの五日市学術討論会もその流れの中にある。
 しかし自由に平等に討論学習し、真理を探究し明らかにするため互いに己を「虚心」にする雰囲気は、皮肉な事に福沢の説いた立身出世を学校令が煽り、ぶち壊してしまった。昌平黌の後進東京大学は、伊藤博文の権力的介入により特権の独占機関と化し、爵位と勲章中毒の世界を形成し、再び閉塞の時代を自ら形成してしまうのである。原爆の遙か前に、精神的文化的大破綻があったと言うべきである。

 今、学校でdebateが盛んだが、あまり討論とは言わない。舶来の先進的な学習手法と思い込んでいるからだ。

 debateの授業では教室を「勝ち負けの場にせずにはいられず、弁舌を争うばかりで、ものごとを深く考え真理の発見にいたらない」よう教師が指導してしまう。これは「会読」では強く戒められたことである。真理の発見のために力を合わせるのでなければ、高校生が青年らしい行動的な賢さを獲得することは出来ない。日本に生まれた「会読」という集団学習に気付いた方がいい。

 高校に入った4月、父は『三太郎の日記』を読めと言った。その父は
中学入学祝いには万年筆と『ロウソクの科学』を買ってくれた。ペーシ゛を捲る毎に僕は実験を繰り返し、机は焦げ跡だらけになった。
 『空想から科学へ』を『ロウソクの科学』の類だろうと思って手にすると、何やら難解だが薄いから買った。しかし難しい、通学の電車で読み昼休みに広げて格闘していると、上級生が「面白いかい」と話しかける。「難しくて困ってる」と正直に言うと、「俺たちの読書会に顔を出さないか」と誘われた。
 天井の穴から空が見える解体寸前の古い校舎の一角で、『フランス革命時代の階級対立』を六人程度が「会読」していた。会読も珍しかったが、理科実験少年にとって、社会科学にも自然科学と同じく真理や法則がある事を知るのは、魂を引きずり込まれるような経験だった。大学生や専門家たちが入れ替わり立ち替わりやって来て、僕らの討議を助けてくれた。アフリカや南米の海外勤務から帰国したばかりの卒業生たちは、新聞にも雑誌にも無い最新の情報でぼくらを魅了した。終わる頃には星が出ていた。『フランス革命時代の階級対立』を終えると『ルイボナパルトのブリューメル18日』を会読した。これは格段に難解だった。
 深く学ぶことと、広く学ぶことは別では無かった。同時に疑うにも方法が必要なことを知った。
 僕は「分かり易い」授業には今も馴染めない。

若者を貧困と無知から解放すべし

    「病気の原因は社会の貧困と無知からくる。」「だがこれまで政治が貧困と無知に対してなにかしたことがあるか。人間を貧困と無知のままにしては置いてはならないという法令が出たことがあるか」   黒澤明は『赤ひげ』で新出去定に怒りを込めてこう言わせている。             ...