ある年の 6月10日 // Freedom could cure a problem child.

 選択政経の生徒のうち二人はガングロ。化粧は濃いがリボンもチョッキもシャツも汚れきっている。表現の欠落を厚化粧で糊塗して、表現すべき自己そのものを行方不明にする。これは生活指導の必要性を現しているのか、それとも生活指導の結果だろうか。

 外見に対する「指導」は、貧困の中で必ずこうした経過をたどると思う。なぜなら、彼ら自身が表現すべき自己を発見すれば済むのだから。それを可能にするのは自身による「気づき」であって、教師による「指導」や強制では無い。自身による「気づき」は、精神の自由が不可欠なのだ。貧困とは日々の生活のそれであり、同時に指導の哲学の貧困。

  I thought I was curing them by analysis but those who refused to come for analysis were also cured, so I concluded that lt was not psychology that cured them,

 It was freedom to be themselves. If humans were born with an instinct for criminality, there would be as many crminals from fine mlddle-class homes as from slum homes. But well-to-do people have more opportunities for expression of the ego. The pleasures money buys, the refined surroundings, culture, and pride of birth all minister to the ego .Among the poor, the ego is starved. A boy is born in a mean street .His home has no culture, no books, no serious conversation. His parents are ignorant and slap him and yell at him, he attends a school where strict discipline and dull subjects cramp his style. His playground is the street corner. His ideas about sex are pornographic and dirty. On television he sees people with money and cars and all sorts of luxuries .At adolescence he gets into a gang whose aim is to get rich quick at all costs. How can we cure a boy with that background?

 Homer Lane showed for all time that freedom could cure a problem child, but there are few Homer Lanes around .Lane died over forty years ago yet I know of no officlal body dealing with delinquents which has benefited from his experience. The demand is still curing by authorlty and too often fear. One terrible result is that Juvenile crime increases every year.                  A.S.Neill

 プロ野球球団の優勝セールやワールドカップ開催による経済効果について説明するオタク経済学者に対して、大竹まことが「要するに無駄遣いしろと言うことだろう」「それを無駄遣いというの」と反論する。ワールドカップグッズが値下がりした瞬間に大量に買い入れて値上がりを待とうというオタク的経済学者に対して「持っているだけで値段が50倍にもなることにあなたは疑問を持たないのか」と。大竹まことが正しい。ここで「だよね、だよね」と言ったのは、税制改革の議論で小泉首相の「努力したものが報われる・・・・」の発言を聞いた途端、「年収1800万円の人は既に報われているのではないか」と批評した生徒。

  「どうやれば貧しい者から更に税金を取れるのか」と叫ぶ者あり。

 WTOやGATSの果たす役割についてもふれる。

 「何故今、非核三原則見直しを言うのか」の質問も飛び出す。面白くなってきた、ブッシュの対テロ先制攻撃と彼のアフガンに於ける利権、国防長官の軍需産業との関係にも触れる。

  この光景がいわゆる、「最底辺校」の日常だと気付くだろうか。(底辺校の対極にある学校には、sshとか指導指導重点校だのいろいろな名前で美化される。しかし底辺校は魅力的な呼び名はあり得ない、すべての特権の廃止・完全な平等以外に「最底辺校」解消の手立てはあり得ない)教委や文科省はこうした現場を見て回る職務がありはしないか。そして自ら教壇に立て。少なくとも教科書の無意味と指導要領の犯罪性に顔を赤らめる。そんな筈は無いか。

 経済効果という怪しげな専門用語は、対象に対する分析を省略し思考停止にはしる。教員社会も仲間内用語によって、思考過程をとばして集団的思考停止に陥る。経済効果は所詮金のある者が「お守り」として使う言葉。金が無ければ思考停止しない。

  ホーマー・レイン(1875年 – 1925年) は、英国の教育者。非行少年たち自身が生活をコントロールする術を身につけることで、その人間性を改善することができると寄宿舎教育を実践した。彼の一貫した信念は  Freedom could cure a problem child.

 

「象牙の船に 銀の櫂 月夜の海に 浮べれば」・・・


 詩人西條八十は、詩に専念したいと願いながら 生活苦のために株取引に明け暮れていた。
 貧乏は人をその人の望む仕事から遠ざける。芸能人は演劇などの芸に専念出来ないため、生活のためCMで笑顔を振りまかざるを得ない。まるで商品の奴隷だ。

 日本の医師は、病院経営と外来患者数の多さに追われて医療に専念出来ない(人口1,000人あたりの医師数:日本2.0、独仏3.4、米2.3 //・医師一人当たりの外来患者数:日本8421、米2222、OECD平均2400)
  日本の教師は労働時間は世界的に見てダントツに長いが、授業に専念する時間は短い。雑務や部活に追われるからだ。
 日本の親は仕事と通勤に時間をとられ、子どもの世話や社会活動と睡眠時間を削り誇りを持てない。
 
 みんな「唄」を、誇りを忘れている。忘れさせられている。睡眠時間を削られた者は、考えられなくなる。だから短く他人を他人を揶揄するメッセージが飛び交う。
 
唄を忘れた 金糸雀(かなりや)は/ 後の山に 棄てましょか / いえ いえ それはなりませぬ

唄を忘れた 金糸雀は / 背戸の小薮に 埋けましょか / いえ いえ それはなりませぬ

唄を忘れた 金糸雀は / 柳の鞭で ぶちましょか / いえ いえ それはかわいそう

唄を忘れた 金糸雀は / 象牙の船に 銀の櫂 / 月夜の海に 浮べれば / 忘れた唄を おもいだす

 『かなりあ』は1918年(大正7年)の『赤い鳥』に掲載された。

唄を忘れた 金糸雀は
象牙の船に 銀の櫂
月夜の海に 浮べれば
忘れた唄を おもいだす

 唄を忘れた者のために必要なことが、金糸雀に託して描かれている。誰もが好きで得意なことに専念出来れば、子どもも少年も、忘れた唄=学びを思い出す。医師が治療に、教師が授業に、働く親が子育てに専念する制度を作るのが行政である。国公立大学・研究機関や病院の「法人化」はこれに逆行している。行政の役割まで営利企業に丸投げする有様だ。

 高校生の「荒れ」を「異議申し立て」として受け入れるとは、「象牙の船に 銀の櫂 月夜の海に 浮べれば」とは最高の教育を最善の環境で保証することだ。

 遅刻三回で自主退学させ(後の山に棄て)たり、茶髪の生徒を追い返し(小薮に埋け)たり、些細なことで体罰を受け(鞭でぶっ)たりを、人間の学校は何十年やり続けてきたのか、いつまで続けるのだろうか。少年法体系は厳罰化が止まらないし、投資教育で資本の餌食にされるのを自己責任や契約と呼ぶ始末だ。諦めを弱者の新しい道徳と言うつもりか。強い者への規制は取り払われる。

 泥の船に 氷の櫂 吹雪の闇夜に 働く者を流しているのが日本。象牙の船に 銀の櫂で 月夜の海に宴をはるのは
嘘で政権を握るものたちだ。
  最高の教育を最善の環境で、唄を忘れた子どもに保証するにとは、すべての特権を公教育から排除しなければならない。これが民主主義の前提の筈。


   1918年(大正7年)は祖父母たちが、父や母を産み育てた頃だ。母や叔母の小学校時代の写真は「赤い鳥」の表紙そっくり。色褪せた児童雑誌「赤い鳥」もSP判レコード「かなりや」が戦後も残っていた。
  学校が少年たちに、現人神のため命を捨てることを「名誉」と考えさせるようになるのに僅か20年。
 今日本は原爆を落とした国の言わば「奴隷」、自立した国家としての誇りを捨てている。

若者を貧困と無知から解放すべし

    「病気の原因は社会の貧困と無知からくる。」「だがこれまで政治が貧困と無知に対してなにかしたことがあるか。人間を貧困と無知のままにしては置いてはならないという法令が出たことがあるか」   黒澤明は『赤ひげ』で新出去定に怒りを込めてこう言わせている。             ...