20年後を見通す政策を立案する賢明さはどこから来るか

妊娠中絶合法化で20年後の若者の犯罪率が低下した
 栃木県の認定こども園で、保育教諭らが、2歳児たちに「死んでしまいなさい」と罵り、食事やトイレの際にも「廊下に出ろ」「邪魔」「うるさい」などと暴言を吐き、園児を明かりのついていない教材室に入れたこともあったという。
 こども園は保護者に謝罪、当該園児宅を個別訪問し謝罪した。件の保育教諭2人は退職。園長は「園児や保護者に不快な思いやつらい思いをさせ、申し訳ない。今後は職員間の風通しを良くし、保護者に安心してもらうためのカメラを設置するなどして、再発を防止していく」と話したと新聞などは報じた。   2019年7月31日

 日本では子どもの虐待死が年間50件を超え、2017年度の虐待死は65人。(厚労省社会保障審議会の児童虐待に関する専門委員会)  死亡した子供の年齢は0歳児が28人と最も多い。加害者は実母が25人、実父が14人。また16ケースは「予期しない妊娠・計画しない妊娠」だった。
  2018年度、児童相談所での虐待相談対応件数は全国で前年度比2万6072件増の15万9850件と過去最悪、統計を取り始めた1990年度から28年連続の増加。

 児童虐待によって生じる社会的な経費や損失は、日本国内で少なくとも年間1兆6000億円にのぼるという試算がある(2012年度)

  栃木のこども園では「死んでしまいなさい」と子どもが叱られていたのに園長は数ヶ月も気付いていない。この園長は普段は園のどこにいたのか。子どもや保育の現場が、好きではない事が分かる。風通しや監視カメラの設置で済むわけがない。
 子どもや現場が好きである事と、教育行政が乖離したのが事の発端である。かつて校長や教育委員会の教育長、教育委員会事務局の指導主事にも教育免許状が必要であった。 教育委員の公選制廃止以降も、日本の教師はよく闘って公教育制度の民営化や権力の介入を防いできた。一方ベトナム反戦闘争でも大きな力を発揮して、学生たちを鼓舞して「頭は白いが胴体は真っ赤」と言わしめた。だが、教員組合の組織率の低下は如何ともし難く、教研活動(80年代半ばには、教研集会報告に生活指導が目立ちはじめると共に、教科実践報告が少なくなっていた)も低迷、組合の白くなった頭は教育行政と一体化してしまった。日教組が主任制反対闘争から降りたのは95年、職員会議での採決禁止が98年であった。こども園だけではない、あらゆる公教育機関が、権力と利殖の低次元な舞台と化した事の表れが栃木の事件である。直ちにやるべきは、監視体制の強化ではない、監視体制の行き着いた先が、神戸の小学校教師のいじめ事件である事を知らねばならない。

 教育行政がその姿勢を、教育と子どもに向きを変えなければ、事態は解決に向かわない。教育行政当局が、教育愛に燃える、こんなに絶望的なことがあるだろうか。
 厚労省の報告にあるように、児童虐待の最大の要因は「予期しない妊娠・計画しない妊娠」である。望まない・望まれない妊娠と犯罪率の関係には、スティーヴン・レヴィットの研究(邦訳『やばい経済学 東洋経済』)が既にある。
 
 妊娠中絶が合法のニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州、アラスカ州、ハワイ州では、他の州よりも早く犯罪が減り始めていた。凶悪犯罪で13%、殺人事件では23%減少していた
(1994~1997年)
   1973年テキサス州の「ロー対ウェイド」裁判以降、妊娠中絶合法化が全米へと広がり、一年間で75万人の女性が中絶を受け、さらに1980年には160万件まで中絶件数が増えた。その結果、子殺しの件数が劇的に減り、できちゃった結婚も減り、養子に出される子どもも減少。
 そして「ロー対ウェイド」裁判から20年ほど後の1990年代初め、犯罪発生件数自体が劇的に減少したのである。恵まれない環境で、幼少期、少年期を送った子どもたちが、犯罪へ走りがちな若者の犯罪が明らかに減った。

 幼児虐待が効果的に減少するには、「予期しない妊娠・計画しない妊娠」による親の犯罪を直接止めると共に、「予期しない妊娠・計画しない妊娠」によって生まれ十分な愛情の元で育てられなかった世代がなくなるのを待たねばならない。それは少なくとも20年はかかる。
 気の短い議員がマスコミ受けを狙って、行政当局に求める性急な対策は一見効果がありそうだが、当該議員の短期的人気を高める以外の効果はない。20 年以上たって漸く効果が見えてくる政策、それが社会政策である。

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