Massachusetts「学生権利法」はどうつくられたか・ブラック校則と闘うために 2

承前    拙著『法律をつくった高校生』国土社刊から抜粋・再構成
 
教科書「民主主義」は閣僚・裁判官・官僚・議員
が読み、国民がその学習具合を点検しなければならない
 Massachusetts『学生権利法』が生まれたのは、高校生たち自身の取り組みの結果。70年代はじめ、各地で高校が荒れていた。校内暴力、中退者の増加、異人種の生徒間の暴力事件……。学力の低下も深刻だった。
 1949年の調査によると、アメリカの高校長の悩みといえば、「虚言と不敬」が最も重大な問題で、数のうえでは「無作法な行為」「廊下を走る行為」などが問題となる程度でしかなかった。
 1956年の調査では、大都会教師の28%が、1年間に教師に対する生徒の暴力を目撃したことを示し、校内暴力持にスラムにおけるそれの始まりをとらえている。
 1977年FBIは、青少年犯罪の増加を報告している。15~18歳の青少年による殺人・強姦・強盗・傷害という対人犯罪の逮捕率が、1953年には10万につき85人であったのが、1974年には295人に増加している。また同年代による建造物侵入・窃盗・器物破損・放火の対財産犯罪は、1953年に10万人あたり160人であったものが、1974年には520人にふえ、その影響は学校も例外でなくなった。
 アメリカでは、麻薬の大部分は、学校内で購入することができる。アメリカは、十代の麻薬問題で最も大きな悩みをかかえている。
 非行による損害額は、1970年から73年当時年間5億ドルにも達していた。
 またニューヨーク市の統計によれば、1973年から74年にかけて、学校関連犯罪の増加率は次のとおりである。
  窃盗 136.2%
  麻薬使用  86.5%
  性犯罪  52.6%
  暴力行為  44.9%
  不法侵入  42.1%
  強盗  33.5%
  武器所持  26.4%
 1972年1年間だけで、ニューヨーク市では、496件の教師を襲う事件が報告されている。警官が学校によばれたケースは、1973年の1月から7月までで5530件。
 そのために教員連盟は「教師と生徒の安全確保のための手引き」を1974年に作成して、高校生に襲われた場合の措置をマニュアル化したほどである。1973年にフロリダ州は、学校内暴力による器物破損、運営妨害に年間185万ドルを支出している。

  なぜ荒れるか高校生自身が考える

 アメリカでは教育行政は、州単位。マサチューセッツ州は、荒れる高校を前にして、管理を強めるという方法をとらなかった。なぜ荒れるのか。それを生徒たち自身に考えてもらう方法を選んだ。きわめて異例、当時の教育長が進歩的な人だったからでもある。教育委員は住民による公選であるから、教育に対する住民の意志は、教育行政に直接反映する。
 かつて日本でも、戦後民主化政策の一環として、自治体の教育委員は、住民による選挙で選出されていた。1955年、知事による教育委員の任命、教育委員会の長である教育長については、さらに文部大臣による承認を要することになった。そればかりか、教育委員会の予算原案の提出権まで奪われたのである。
 このことは荒廃する学校・高校生に対し押しなべて管理的方法が導入された日本と、マサチューセッツのちがいの条件となっている。
 マサチューセッツ州には400ほどの高校がある。各高校から選出された代表によって構成する生徒評議会が結成されたのは1972年。
 全体会を月1回、地域ごとの会合は、頻繁に開かれた。とくに暴力のひどかったボストン市中心部の高校では暴力行為のリーダーを評議員として意識的に選んだ。

 欧米では、学校や教育行政に父母・生徒・学生・住民が直接関与するシステムがある。
 たとえば、フランスやイタリアの高等学校では、学校評議会が学校内の最高決定機関であることが、法律で定められている。その構成員は、行政・事務代表・教員代表・親の代表・高校生の代表・地域の代表からなっており、教員評議会はその下部組織となっている。
 カリキュラム編成・高校生の処分の他、学校予算・決算も学校評議会の権限である。(フランスの制度は1989年のジョスパン法によってさらに前進、後述するがこの前進は、フランスの高校生が自ら闘いとったものである。)
 アメリカでは、地域によって様々な高校生参加方式が、こころみられている。たとえばニューヨークでは、市内の高校に教員・高校生・父母のそれぞれ5名から構成される諮問委員会を設置し、高校生が学校運営に参加している。
 マサチューセッツ州では、教育政策決定に高校生が参加する公式の仕組みがつくられ、高校生の代表が、教育委員会と同じやり方で論議を重ね、その結論を教育委員会に提案する。提案された事柄がどう取り扱われたかについて、高校生は公式の回答をうけとることが定められている。
 こうした民主的風土の中で、話し合いが開かれたのである。
 どんな話し合いが開かれたのか、想像するしかないが、代表の中には優等生も、暴力行為のリーダーも含まれていたのだから難行したに違いない。優等生にとって、暴力をふるい学校の秩序を乱し、名誉を傷つける高校生は、単に勉学の妨げでしかなかったかもしれない。処分を重くし、管理を強化することを望んだ意見も、少なくなかっただろう。
 「話しあううちに、学校がちがっても、抱えている悩み、問題は同じだ、ということがわかってきた。ひとことでいえば、生徒の不満は『生徒が人間として尊敬されていない』ということだった。

  今日本で、ブラック校則が問題になるのは、高校生が荒れているからではない。
 警察庁の調査によれば、2015年中に刑法犯として検挙・補導された少年(14~19歳)の人数は約3万8,900人で、12年連続の減少となり、戦後最低を更新している。
 荒れていることを理由に、管理を強めることでさえ正当とは言えない。まして荒れてはいないのに、ブラック校則は増殖して偏在する。ブラックな校則は、いったい誰のどんな行為や態度に対応しているのだろうか。こんな理不尽があるだろうか。『人間が人間として尊敬されない』状況が作り上げられているのではないか。  つづく

 

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