天皇の「沖縄メッセージ」と中野重治 2 「鬼畜のふるまい」

 米軍籍の聖職者が日本降伏直後の9月11日、立教学院を訪問している。彼の懐かしい思い出の教会は、梅干しと沢庵の倉庫として使われ,図書館の一部は御真影奉安室になっていた。1カ月後、GHQ指令が届き学長ら11名は罷免。最初の教職追放である。
   教職追放は,GHQのCIE(民間情報教育局)が担当した。CIEは、教職追放の方が公職追放より厳しいものになると考えていた。全国130万の小中学校教員、大学教授等を対象に審査し、日本の戦争を肯定する者、積極的に戦争に加担した者、戦後の自由と民主主義を受け入れない者に、除籍を求めたのである。1946年5月、文部省は『教職員の除去、就職禁止及び復職の件』を発令。各都道府県に教員適格委員会を設置。
  森本 弥三八『戦後教育の出発 長野県教員適格審査委員会の記録』銀河書房1977刊 は、委員自身による委員会の記録だが、きわめて入手困難。書籍紹介pdfファイルはここ ←クリック  追求が徹頭徹尾不徹底であった事が分かる。
  森本 弥三八氏は、県労働組合協議会推薦で委員になった人である。

 戦争協力責任を感じて、教職を自ら去った教師もいる。しかし国分一太郎のように、陸軍報道部に属する宣撫官としての経歴に蓋をしてしまった人も少なくない。当時の学生・生徒による証言や追求も組織化されることはなかった。この点に注目して、天皇制の教育に於ける役割を究明すれば、『五勺の酒』後半部分は、興味深い作品になっただろう。

 天皇メッセージは、天皇自身の地位がまだ不安定な時期、1947年9月20日付でマッカーサーに届けられている。日本国憲法施行の4カ月後、極東国際軍事裁判判決の2カ月前である。
 新憲法後の事であるから、天皇メッセージは憲法の禁ずる天皇の「国事行為」である。軍事裁判判決の前なら、中野重治の言うように「鬼畜のふるまい」である。
  食い詰めた博打好きの父親が、娘自身には内緒で娘を岡場所に売り飛ばすに似て形容しがたい怒りが湧いてくる。

  沖縄県公文書館は“天皇メッセージ”についてこう書いている。
 同文書は、1947年9月、米国による沖縄の軍事占領に関して、宮内庁御用掛の寺崎英成を通じてシーボルト連合国最高司令官政治顧問に伝えられた天皇の見解をまとめたメモです。 
内容は概ね以下の通りです。 
(1)米国による琉球諸島の軍事占領の継続を望む。 
(2)上記(1)の占領は、日本の主権を残したままで長期租借によるべき。 
(3)上記(1)の手続は、米国と日本の二国間条約によるべき。 
メモによると、天皇は米国による沖縄占領は日米双方に利し、共産主義勢力の影響を懸念する日本国民の賛同も得られるなどとしています。1979年にこの文書が発見されると、象徴天皇制の下での昭和天皇と政治の関わりを示す文書として注目を集めました。天皇メッセージをめぐっては、日本本土の国体護持のために沖縄を切り捨てたとする議論や、長期租借の形式をとることで潜在的主権を確保する意図だったという議論などがあり、その意図や政治的・外交的影響についてはなお論争があります。

  昭和天皇が「日本国民の賛同も得られるなどと」本気で考えていたとすれば、なおのこと少なくとも県民の了解を求めねばならない。彼はこの時点で、主権者ではない。にもかかわらず、領土と人間を自分の持ち物のように占領軍に「献上」したのである。まさしく「鬼畜のふるまい」である。  
 「翌48年2月に2度目の“天皇メッセージ”といえる考えが天皇側から米軍側に伝えられていた。皇室と連合国軍総司令部(GHQ)との連絡係を務めた宮内府御用掛の寺崎英成氏が、ソ連の侵攻に備え「琉球」を含む日本列島からフィリピンを防衛前線とする考えを米側に伝達していた・・・」 
            2017年4月28日琉球新報

   丸山真男は駅ホームの放送「危険ですから白線の内側にお下りください」に腹を立てた。判断する主体はあなたではないということを、政府に代わって数十年間睡眠学習のように聞かせ続けているからである。
 少年から判断するする主体としての知性を奪ったのが、戦前の教育であった。敗戦後、県民と県民の土地をどうするのかの県民自身の判断を予め封じて、沖縄と県民を献上したのが「人間天皇」であった。
 いまだに、放射能が危ないかどうかは、「主権者」が判断するのではなく、「お上」が判断した結果に従えという。オスプレイが危ないかどうかも一介の国民が判断するのではない、米軍が日本向けに説明した内容に基づく官房長官の嘘を信じればいい国民なのである。

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