「異議申し立て」の方法や思想を新たに

  アガサ・クリスティの作品や「シャーロック・ホームズ」を読めば、作品中に貧しい労働者が主人公として描かれることはない。貴族や名士と植民地での怪しげな略奪で財をなした者たちの相続を巡る殺人事件が描かれる。

 物語の遺産の殆どすべては、帝国植民地からの暴力的略奪による。貴族や名士たちの身分は、その略奪の巧みさによっている。「略奪」された植民地側の抗議=異議申し立てには、ポアロの灰色の脳細胞やワトソンのpenも弱々しくほぼ無関心。


    事件解明の主題は「植民地での帝国の怪しげで暴力的略奪」ではない。略奪され側の怒りや涙も描かれない、英国市民の誰がもっともらしい相続人なのかだけが問われる。豪華な列車や客船もホテルも登場人物の華麗な生活を飾る舞台装置でしかない。それらの費用の源泉や労働の担い手が考察されはしない。古代遺跡発掘を巡る利権争い殺人でも、埋蔵文化財の所有権関心が向くことはない。正当な所有権を持つ植民地政府は宗主国家の傀儡でしかなく、所有者たる民衆は怪しい言葉の発掘労働者や偽物を略奪国家英国人に売りつける無頼な輩としてしか設定されない。

 アガサ・クリスティの作品や「シャーロック・ホームズ」が絶大な人気を保ち続けるのは、大英帝国への「異議申し立て」そのものが存在しないかのような世界観で成り立っているからだ。

 我々が日本や米英のマスコミ報道を手放しで肯定するのは、我々の世界観が歪んでいるからでは無いか。異議申し立て不要の同調圧力に屈しているからではないか。人も組織も己のやましさを隠そうと正義面して、殊更他者の悪をあげつらう傾向がある。


 第三世界の地下資源は誰のものか、水は誰のものか、森林は誰のもの現地現地国民共有であり不可侵ではないのか。ところが国有化を宣言した国は悉く米や英や仏に国家転覆の攻撃をかけられている。キューバ・ベネズエラ・チリ・シリア・イラン・パナマ・ベトナム・・・枚挙に暇がない。対してこれらを専有する「法人」の所有権は、その株主の特権とともに幾重にも守られているのだ。


 ウクライナ攻撃のロシアに対する経済制裁を正式に「拒否」した国は・インド ・中国 ・メキシコ ・サウジアラビア・アラブ首長国連邦 ・ベネズエラ ・トルコ・エジプト・イラン・ドイツ・ハンガリー・セルビア・アルゼンチン・ボリビア・エルサルバドル・ウルグアイ・・・

 ウォールストリート・ジャーナルによれば、サウジアラビアは、「アメリカ大統領からの電話を受けるのさえ拒否した」と伝えている。

 アラビア半島の国々は、パレスチナに限らず英国の「三枚舌外交」で煮え湯を飲まされている。対ロシア経済制裁を懇願する米大統領の電話さえ断った気持ちはよくわかる。

 対して対ロシア制裁に加わっている国は・アメリカ・欧州連合・スイス・イギリス・カナダ・チェコ共和国・オーストラリア・ニュージーランド・日本・韓国・台湾

  米英仏+NATOとウクライナが孤立しているのだ。

 ベトナムが北爆と枯れ葉剤で攻撃されているとき、チリのアジェンデ政権がciaとピノチェト将軍の大量虐殺と専制支配に泣いている時、パナマ運河の国有化を阻止するために米軍がこの小さな国を爆撃した時、辺野古の埋め立て地に新たな基地建設が詐欺的手法でされている強行されている今、一体どの国のTVや新聞が連日数時間おきに報道したか、しているか。

 かつて米国支配下の米州機構で、キューバは徹底的に孤立していた。しかし今、米州機構内では米国が完全に孤立している。


   ロシアに対する「異議申し立て」には、莫大な資金と国家・国際機関が動員される。ベトナムやチリなどが米国の攻撃を受けているとき、国際機関は機能しなかった。抗議は弾圧下の絶望的環境の中で行わざるを得なかった。我々が知るべきは、報道から隠された部分である。よってたかって繰り返しTVに登場する事柄こそ疑わねばならぬ。

  「異議申し立て」を禁じられた部分の再現こそ、世界の総体的理解に欠かせない。

 イラク・マアルーマ通信は「アサイブ・アフロルハック(正義の連合)」の政治局員Saad Al-Saadi氏が、演説の中でウクライナ戦争をめぐる国際社会、中でも国連や安保理の態度について言及し、「ウクライナに対する国際社会の態度は、イラクが米国により占領されてインフラや安全保障システム、あらゆる経済活動を崩壊させられた時にとられた態度とは、完全に異なっている」・・・「この態度の違いは、国連や安保理が国際社会の一員たる諸国に対し、同一の基準で対応していないことを証明するものである」・・・「安保理は、イラクの旧バアス党政権が1991年にクウェートに侵攻した後、イラクに対して、520億ドル以上の賠償金を国民の糧食となるべき国の資産から支払うことを強いた。国際社会はこのことから、イラクのインフラを荒廃・崩壊させた理由で米国に制裁を課し、全ての者に同一の基準で対応を取るべきである」と述べたと伝えている。

  イラクにはいかなる大量破壊兵器もなかった。従って米英のイラク侵攻は恐る大量大量殺人・国土破壊・文明破壊であり、殺人罪と賠償と経済制裁の対象である。彼らは自らの犯罪を、まず総括しなければならない。そんな国に他国を非難し、異議申し立てする資格は無い。


  さてここからが本題。少し前僕は荒れる高校生を擁護して、「荒れ」は授業を忘れた学校管理体制への「異議申し立て」であると書いた。誇り高い高校生たちは、ガミガミ叱られるだけの些末な取り締まりに反発する。負けたくないからツッパル。高校生が突っぱれば突っほど、教師の取り締まりはエスカレートして、授業は忘れられた。

 今ツッパル高校生は殆ど姿を消した。しかし学校は授業に回帰しない。新たな取り締まりを頭髪や下着の色に見いだしたからだ。それも無くなれば授業に専心するだろうか。ことをことを許すような管理体制では無い。学校の偏差値を上げる企てを管理職や教委に上申するのに鎬を削らされる。部活と受験対策と行事に忙殺されて過労死に向かっている、相も変わらず学校は授業に回帰しない。「異議申し立て」はかくも無力なのか。秩序への従順さを受け入れさせる管理技術だけが高度化し続ける。

  「異議申し立て」の方法や思想を新たにしなければならない。いつまでも学校は授業に回帰しない。教師は忙殺され続けるのだ。

 教師自身が、授業を求めて「異議申し立て」に向けて自己組織しなければ教育が死ぬ。学校は既に死んでいる。

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