大人には内緒だよ |
「一旦決意したことを途中で辞める事は許さん、・・・そんないい加減な奴が、人生で成功するわけはない。お前は絶対合格しない」散々卑しめられ罵られた。
僕は授業で「クラブは全ての生徒の権利だ、カルトではない。参加も退部も自由だ」と説明した。この三年生が相談に来たときには
「もし顧問が許さんと言ったら、僕の名前を出して「辞めるのも権利」と授業で習ったと言え」といって置いた。だから顧問の異常な憤りの大半は、僕に向けられていた。半年あまりが過ぎ、彼が誰もが羨む大学に合格して報告に行ったとき、顧問は露骨にいやな顔をしたという。
「勉強勉強と言うな、学校は勉強ばかりではない」と生徒がむくれるのをあちこちでよく聞いた。学校的価値に対抗しているつもりなのだ。
だが、忽ち「その通り、勉強以外も大切だ」と肯く教師によって、難なく生徒たちは取り込まれる。「勉強ばかりではなく、生活態度全般や将来」までを指導介入する根拠を手に入れてしまう。元々日本の教師は「生徒にとって大切な事は、一切私が指導する、任せなさい」と言いたがる。配下結婚相手の家柄や思想にまで干渉するのを当然至極のようにする公的組織もある。それが、自らの有能性の証だと思い込むのである。
青少年が教師に主張すべきは
「学校「時代」の僕たちに必要なのは、勉強ばかりではない」である。平和運動や自治活動もある、「部活」によらないスポーツや芸術もある。信仰もある。親戚付き合いや近所づきあいも欠かせない。勉強以外も、なかなかに忙しい。
青少年の教師に対する言うべきはまだある。
「教師が指導できるのは教科能力だけであり、それ以外は我々の自由である」。ひょっとすると教科ですら生徒の中に遙かに優れた者がいたりするものだ。
「我々の行動や考え方に異議があれば、教師は対等な市民として人生の先輩としてアドバイスをすることが出来る」。組織上または法律上、懲罰を科することもしたくなるだろうが、その時一切の指導の根拠を失うことになる。
「教科に対する見識や人格によって若者の生き方に大きな影響を与える事を期待もする。しかし評価することは出来ない」・・・である。
必要なのは、生徒に対する学校の管理領域を限定することである。同時に特定の教員を師と仰ぐのも個人の自由である。藤野先生と魯迅の関係は、そのなかから出てきたものなのだ。藤野先生は些かも魯迅を拘束しなかった。それ故に魯迅の決意は個人のものとして立ち上がる。
勉強以外の事柄に関して学校が若者に干渉できるのは、拒否する自由を前提とした指導が精々であることを知らねばならない。学校も公的組織である限り、憲法を超えて個人の自由と権利に制限を加えることは許されないからである。それを敢えてすれば、秘密結社になる。
体罰や体罰死、熱中症死が何時までも繰り返されるのは、個人の権利とは何かについての認識が徹底的に欠けているからである、 教師にも生徒にも父兄にも。
恩恵と特権が幅を利かせるのは、個人の自立を認めないことの代償なのだ。
生徒の生活態度全般や人格にまで介入することを己の職務範囲としたがる教師が、行政の「日の丸君が代」強制によって身動きならない羽目に陥っている事は自覚しておかねばならない。生徒であれ同僚であれ、他人の内心や良心に介入すれば、行政が自らの内心や良心に介入することを、論理的に拒否出来ない。
しかし何故教員は自ら望んで労働強化とも言うべき職務範囲の拡大に走ったのか。自己の有能性を誇示する衝動が平等性の強い教員の職場にあるのは皮肉なことである。人事考課制度は押しつけられたのではなく、招き寄せたものでもある。例えば教科であれ生活指導であれ部活であれ、超過労働であることを教研集会でさえ誇らしげに発表し褒め称えるのである。組合活動家と人事考課は、仕事熱心かつ仕切りたがるという点で親和性が強い。
1968年の大学「紛争」それに続く高校「紛争」が、学生と教員間の人格的対立に発展して膠着したのは、その「指導介入」の為と言える。それ故妙な光景が出現した。反動的と見られた教師たちが、人格にも指導関与しないが故に、学生たちの人気を集めたのである。
欧米の大学で広範に見られた学生生徒と教員研究者の連帯共闘が、この日本では成立しえない構造がある。それが教員組合の闘争に、直ちに大学生・高校生が反応して街頭行動で連帯する欧米・南米との根本的差違を説明している。
追記 受験名門校が「自由」な校風を持つのは、「指定校推薦」に生徒も教師も興味が無いからである。学校推薦や部活推薦の条件に、人格や生活習慣を潜り込ませて生徒の日常を支配出来ないからである。 「推薦入学」は権利ではない、支配の道具に過ぎない。冒頭の三年生も、推薦入学を目指していたら顧問に対して強気の態度はとれなかっただろう。大学生の就職に於ける企業の指定校制度も、学生を社会問題から隔離して臆病にしている。
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