ユーモア精神と、死をかけた反抗

 
1518年の改定版は
小国バーゼルで印刷している
アメリゴ・ヴェスプッチの新大陸旅行記『新世界』を読んだ英国大法官モアは、自然に従って生き私有財産を持たない共同社会が実在しうる事を確信し、『ユートピア』を書いた。左にある画像の書名には「最良の社会体制ならびにユートピア新島について。いとも著名にして、雄弁なるトマス・モアによる、機知に富むばかりか、効能もある、真の黄金の書物」とある。

 その『ユートピア』の中に「羊はおとなしい動物だが人間を食べつくしてしまう」という鋭い風刺表現がある。村落共同体を破壊し、農民たちを放逐する囲い込みを進めるイングランド紳士たちを批判している。

  のちにトマス・モアは反逆罪で斬首されるが、処刑されるときでさえ、三つも冗談を飛ばしている。まず断頭台に登るとき、警備長官に、
 「階段を登るのを手伝ってくれたまえ。降りるのは自分でなんとかできそうだから」と頼んでいる。
 また恐怖に震える断頭台の死刑執行人には、
 「きちんと自分の仕事をやり遂げるのだぞ。もし打ち損じれば、おまえの評判に傷がつく」と忠告。そして断頭台に首をのせても、顎髭を斧で切断されないよう脇によけながら、
 「この髭はなんの反逆罪も犯しておらぬからな」と言ったという。

 処刑のわけは反逆、女癖の悪い国王の離婚と国王至上法(国王を、カトリックから独立した英国教会の「唯一最高の首長」とする法)の制定に反対したことが、狂気の王ヘンリー八世の逆鱗に触れたのである。この処刑は「法の名のもとに行われたイギリスで最も暗い犯罪」と評価されている。

 今度の衆院選選挙公約に自民党は憲法改正を盛り込み、「緊急事態対応」を掲げている。これが、ヘンリー八世の国王至上法ナチス全権委任法に並ぶ暗黒を抱えている。
 日本にトマス・モアは現れるだろうか。もうすでに日本の、村落共同体は破壊され、国家の独立までが蹂躙され、国土そのものは核汚染を止めることが出来ない有様である。日本の農民労働者を食っているのは、羊ではない。新自由主義という一見魅惑的厚化粧のバケモノである。この惨状をユーモアを以て鋭く分析する強い知性が、集団にも個人にも必要である。

追記 ゲバラは自分の銃殺をためらう兵士に向かって「おい、撃て、恐れるな」と告げて、兵士をたじろがせている。トマス・モア最後の言葉を思わせる。
 ところでトマス・モアは、肖像画でも映画でも、脇によけるほどの顎鬚はない。それで敢て言った言葉であれば含意は更に深まる。

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