「前へならへ」「気をつけ」「礼」は明らかに悪い

 バターン死の行進について、こう言う見解がある。
 「自分たちでさえろくに食べられないでいた日本軍に、いきなりその統制下に入った8万の捕虜に十分な食糧を与えられる余裕があるはずはないし、ましてこれだけの人数を運ぶトラックやガソリンも持っていなかった。食うや食わずでひたすら歩くのが日本軍の常であったため、これを虐待だとは思わなかった」   若槻泰雄 『日本の戦争責任』
 僕はそうは思わない。勝てば投降した捕虜を国際法に基づいて扱わねばならない。それが出来ないのなら、勝つ方策なしに兵隊を送り出していたことになる。その見通しなしに作戦を指揮したのであれば、その罪万死に値するのだ。戦争を指導する資格はないのである。投降した捕虜に頭を下げて、釈放しなければならない。
 経営者が「オレだって借金だらけでろくに喰ってないんだ、みんなやっている」と言いながら、違法な低賃金や残業でこき使うのと同じだ。それを会社が潰れても良いのかと居直る者も増殖している。
 「前へならへ」が恐ろしいのは、こういう事態を量産するからである。学校で、学徒出陣式で「前へならへ」をしたまま戦場に。前の兵隊の背中ばかりを見て、食料強奪や強姦が日常になり、気がついたら、捕虜を刺し殺し、気がついたら「白骨街道」に横たわっていた。
  
  ヌーやカモシカの蹄の間には、粘性の匂いを分泌する蹄間腺がある。縄張りの確認にもなる。歩けば地面に匂いを残すから、ヌーのように遠い距離を集団で移動するときには、頭を地面近くに垂れて先行するものの匂いを頼りに歩くのである。先頭以外は判断する必要はない。先頭も習慣や惰性から自由にはなれない。行く手を遮る川に橋が架けられても、川に飛び込んで溺れる。  
 「前へならへ」「気をつけ」「礼」に続く学校生活で我々は、社会的「蹄間腺」を刷り込む。それを「社会性」と強弁する。 
 「前へならへ」が好きなら、食堂や駅で並んでいるときに勝手に大声を張り上げてやれ。「気をつけ」「礼」が必要と思うなら、順番が来たとき毅然と一人でやったら良いだろう。止めない、だが他人に強制するな。

   大雪、雪掻きをする。小学生も中学生も出てこない、高校生や大学生はもちろん出てこない。去年も一昨年もそうだった。評価に結びつかぬことには見向きもしない。強制的ボランティア教育の見事な成果である。震災のようにマスコミが騒げば動く、政府が指図すれば動く、動員されれば動く。自分で判断せずに指図にだけ反応する。
   翌日雪が止んで、僅かに人が出てくる。校庭やグランドで野球やサッカーをやっていた連中は、雪の日に何をしているのだろうか。ほうぼうの雪掻きをして歩かないのか。スポーツする若者が年寄りやは親に雪をかかせて、本人は炬燵でゲームに興じる。そして「健全な魂は健全な肉体に・・・」を座右の銘にする。  

 僕はあと30年位は待とうと思う。大雪が降って街が困っているとき、「自分の判断で」遅刻や欠席して、お年寄りの雪かきや屋根の雪下ろしを手伝う中学生や高校生が続出するのを。夏の暑い朝、草むしりする人を見かけて思わず助けているうちに遅刻してしまう少年がでるのを。そう期待して検索するが、出てくるのは、部活で、生徒会で、クラスで教師に言われて皆で「奉仕」したというものだけ。それもえらく少ない。誰にも言われず「自分の決意」で、欠席して皆勤賞を逃したり推薦入学も取り消されたりするから気持ちもいい、それを「ボランティア」と言うんだ。上から命じられたり、行事になっているからやるものではない。
  皆がやるから、上が言うからなら家畜や昔の兵隊と変わらない。「一人でも」「不利は覚悟で」かってでる。そうでなければ、市民的不服従も革命もない。公民権運動も、アパルトヘイト反対運動もない。先ず「たった一人の小さな決意」が大切なんだ。皆が不正や犯罪行為を、誰かの指示で、時にはそれが国家の意向であることも少なくない、やろうとしているとき、自分一人の意思で、先ず「僕はやらない」と決意することが大切なんだ。皆が疑問を持たずにやる強姦や処刑や略奪に「そんなことはやめよう」と言う、集団自決や玉砕に水を差す。袋叩きになるだろうがいつかは止む。
 そんな若者がすこし多くなれば、きっと素敵な社会になる。教室がゴミだらけになって、長い間誰も掃除しなくなったとき「ゴミをさらってゆく風になりたいなー」と歌いながら、箒を握った高校生を思い出す

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