「由らしむべし、知らしむべからず」の政治が如何に人民の愛国心の発達を阻害するか

  官軍を率いた板垣退助が、会津城を攻撃した時の事である。藩士たちが会津藩危急存亡の秋と悲壮な戦いに命を散らしているのを尻目に、民百姓が平然と官軍を迎え入れる有様を目撃し「由らしむべし、知らしむべからず」の政治が如何に人民の愛国心の発達を阻害するかに思い到ったという。これが後に、板垣をして自由民権運を決意させている。

 同じ構造は、鬼畜米英に対する総玉砕を叫んだ筈の皇国が、占領軍を特殊慰安施設付きで受け入れた時に現れている。「由らしむべし、知らしむべからず」は、「現人神」の国になって一層強固に広範に叩き込まれていたのである。上から国民に神憑りの愛国心を叩き込んだ張本人たちが、国際法違反の東京大空襲・広島長崎原爆投下責任者カーチス・ルメイに、勲一等旭日章を授与した。この時我が国の「愛国心」は「由らしむべし、知らしむべからず」の構図によって支配者自身が粉微塵打ち砕き、新たに再構成されのだ。それが対米従属という事態である。他国に軍事支配された国家が、愛国心とは片腹痛い。

 去年12月12日、小野寺五典防衛相が1基1000億円で2基購入することを発表した「イージス・アショア」は、実際には米国(ハワイやグアム)へ飛んでいくICBMを落とすためのもので、日本国土の防衛用ではない。米国のために、米国に対して、日本国民の税金を2000億円もつぎ込むのである。大した「由らしむべし、知らしむべからず」の愛国である。

  丸山眞男はこういう。
「統治関係を安定させ強固にする為にも、治者は自己の重大な権益が侵されない限りに於てそうした社会的価値を被治者に配分する方が得策なのです。 
 況んや、被治者の政治的自覚の向上とともに、下から権力・財貨・名誉・知識等への参与を要求する声はそれだけ峻烈になりますから、治者はこの点からも或程度の譲歩を余儀なくされます。 
 こうして近代国家に於ては、もはや、支配階級に依る価値の排他的独占ということは実際的に不可能になったのです」

  カストロがグランマ号で上陸する日時を、反対を押し切って仲間に予め伝えていたことの意味を改めて思い知るのである。勿論そのことでバチスタ軍の待ち伏せをうけ、大きなダメージを受ける。だが、彼は逆に勝利を確信したのである。

 あるとき、職員会議で社会科教員が生徒に試験監督の一覧を見せているのではないかと、古手の教員から強く詰問されたことがある。不思議な抗議で呆れたが、生徒たちが自分のクラスの監督が誰になるかによって、カンニング出来るかどうかを判断するから監督一覧を一切生徒に見せてはいけないと言うのだ。彼は、生徒が社会科準備室に頻繁に出入りしている事そのものが許せなかった。様々な「秘密」や不都合がそこから漏れて「由らしむべし、知らしむべからず」の構図が崩れるからである。秘密や不都合が何であるかは、彼が独断で判断するのだ。そしてそれが若い社会科教員が震源であると非難するのである。
 彼は職員会議の議題を、生徒が知ることもいけないと考えていた。

 まともな国では、学校運営の最高機関である学校評議会に、生徒代表は教師代表らと共に参加し討議評決する。日本でも、新制高校発足当時多くの学校で、生徒が職員会議に出席して発言していた。しかし、殆どの高校で職員会議は生徒や親に対して公開されない。
 行政でさえ、主権者に公文書を公開したがらない、公開しても黒塗りばかり、挙げ句の果ては破棄したと言い逃れる事が出来る。
  それが、生徒の愛校心を阻害し「人民の愛国心の発達を阻害」するのである。
 だから、部活が公式試合で優勝したり、名門校に大勢合格させたりの仕掛けで排他的愛校心に依存する。オリンピックのメダル数が多くなければ、周辺諸国を貶めなければ、愛国心を喚起できないのだ。

追記 僕は「「由らしむべし、知らしむべからず」の構図によって・・・新たに再構成されたのが対米従属という事態であると書いた
 政治学者白井聡は、こう言い切る。「・・・戦前の「国体」。それを戦後の日本は廃棄したつもりでいるけれど、実は違う。我々は「戦後の国体(特殊な対米従属構造)」に縛られているのです。
 「国体」の根本的な問題点は支配の現実を否認させること。「国体」は、支配される人間から考える意思と能力を奪い、「愚かな奴隷」にしてしまう。
 揚げ句、その奴隷たちは、自由で批判的な思考をし、行動できる人間に対して、体制に従順でないと言って、誹謗中傷するようになる。こんな愚劣なメンタリティーが戦中と同じく、最近、増殖してきました」 面白い分析である。


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