虐げられる者たちの連帯・「いじめ」の社会経済的根源

毎日三度薄いおかゆの慈善学校
 人々がとりわけ若者が、差別や民族的拝外主義に走る。特に社会制度的辺境にある若者が。
 その責任の大きな部分を、選別主義学校階位制度を黙認推進してしまった我々は負わねばなるまい。
 それは戦争責任にも相当する。
  「ノアは慈善学校のご厄介になってはいたが、救貧院育ちの親なし子ではなかった。・・・母親は洗濯女をしていたし、父親は呑んだくれのもと兵士で、木の義足と一日当たり二ペンス半プラス・アルファーの恩給を頂いて退役となったのだ。近所の店の小僧どもは、ずっと以前から往来でノアを見かけると、「半ズボン」とか「慈善学校」とかいったような、屈辱的なあだ名を進呈していたものだった。そしてノアは一言もやり返さずに、じっと忍んで来たのだった。ところが、いまや運命が彼の前に、父親もわからぬ孤児を恵んでくれたのである。これに対してならどんな下っ端の人間でも、侮蔑のうしろ指を差すことができるのだから、ノアは利息をつけてお返しをしてやった」              
  チャールズ・ディケンズ『オリヴァー・トゥイスト』(1838年)
  「慈善学校」というと、表むきはひどく美しく立派に聞えるけれども、その実体は子どもを徹底的に卑屈下劣にするだけの効果しか生み出さないことを、ディケンズは鋭く見抜き、それを小説の中で大胆率直に指摘した。
 「(慈善学校)委員会の方々はたいそう賢明かつ学識深い諸公であられたので、・・・次のような規則を確立した。すなわち、すべての貧乏人どもは救貧院に入ることによって、徐々に餓死させられるか、救貧院に入らないですぐに餓死させられるか、どちらかを自由に選択すべきである・・・という規則だ。 
 以上の見地から、毎日三度薄いおかゆ、週に二度たまねぎ、日曜日にはロールパン半分という食事を支給した
            『オリヴァー・トゥイスト』

 王工での会話が、耳にこびり付いている。
 「先生聞いてよ、今朝バスの中でA工生が席を譲らないんだよ、腹が立ってさ」
 「何、言ってるんだ」
 「だってA工生だよ、A工・・・」80年代初めことだ。彼によれば偏差値がA工は王工より一つ低い。だから席を譲るべきだというのだ。互いの制服で学校はわかる。
 「じゃ、目の前に慶応や早稲田が来たら君は立って席を譲るのか」
 「俺のうちのそばにはそんなのいないよ。もしいたら俺は寝たふりする」 もし乗り合わせても早稲田にも慶応にも制服はないから気づかない。
 底辺校の制服はいわば慈善学校の半ズボンである。底辺の迫害を受けた子どもたちほど「お返し」の対象を待ちこがれている。自分より「下」の階層にそれを見出すのだ。

 「臆病者の弱い者いじめ」という言い回しが浮かんだ。虐げられる者たちの連帯は、ラクダが針の穴を通るより難しいのだろうか。
 大きな問題がある。選別の教育体制を黙認加担しておきながら、その結果だけに驚き憤ってみせる我々の存在だ。

 都心のお嬢さん学校に勤務する友人が、東京と世界の貧困状況を概説し、お嬢さん学校はその貧困の上に成り立っていると授業した。彼は、授業が終わるとともに、品のいいお嬢さんたちに取り囲まれて「先生、あんまりです・・・」と泣かれてしまったという。お嬢さん学校保護者たちの経歴を見ればそれは一目瞭然であり、それに工高のそれを重ねればさらに明瞭になる。
 僕は、お嬢さんたちと工高の生徒たちとが学び合う機会を作りたいと思案して、まず学区内高校の合同文化祭を試みた。生徒会役員や教研関係者は面白がったが、普通の生徒たちの日常は少しも変わらなかった。第一、お嬢さん学校や名門校は、合同文化祭に見向きもしなかった。生徒たちは手分けして、案内のビラを学区内すべての生徒会に送ったが、張り切った分寂しかったはずだ。
 体育系「部活」にはこうした寂しさ空しさがない。一見一見、スポーツの世界は公平に見えてしまうのだ。それも問題である。

追記 全国知事会(7月26・27日北海道)で、思いがけないことが起こった。前会一致で、日米地位協定の抜本的改定を求める提言が採択されたのである。提言は次の通り。
(1)米軍の低空飛行訓練ルートや訓練を行う時期の速やかな事前情報提供(2)日米地位を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として適用させること(3)事件・事故時の自治体職員による迅速で円滑な基地立ち入りの保障(4)騒音規制措置の実効性ある運用(5)米軍基地の整理・縮小・返還の促進―を求める。
 対米従属政権下の快挙である。安倍政権は一貫して弱い立場にある自治体をいじめてきた。憲法92条は、自治体と国が対等である旨を「地方自治の本旨」と宣言している。
 しかし全国紙もTVも相変わらず、知事会の提言を無視し「臆病者の弱い者いじめ」を続けている。
 

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