米軍のクリスマス北爆で破壊されたハノイの病院 |
全生園患者自治会の抗議打電が、爆撃からかなり時間が経っているのは、事件報道を「流言飛語」扱いする米国の情報攪乱の中で事実確認に手間取ったためである。
この爆撃を確かめたのは毎日新聞の大森実記者であった。
「米軍が北ベトナム・クインラップのハンセン病病院を爆撃したことは、北ベトナムの撮影した記録フィルムから見て事実だ」との毎日新聞1965年10月3日朝刊記事は、アメリカ一辺倒のベトナム戦争報道に疑義を呈した。
駐日米大使ライシャワーは「共産主義・警察国家の口車に乗せられた宣伝的報道」と噛みついた。
大森実はすぐさま反論の記事をベトナムから打電するが、紙面には載らなかった。「アメリカ」に毎日新聞社の上層部は屈したのだ。大森実は帰国後、執筆禁止を言い渡される。さらに外信部が一貫して報道してきた「ベトナム戦争観」を裏返しにしたような連載を始めてしまった。
大森実は長文の建白書で
「アメリカは必ず負ける。米軍の完全撤兵以外の解決法はあり得ない」・「新聞は付和雷同すべきではない。信ずる道を歩ませて欲しい」と訴え、さらに社の首脳部が新聞製作に関して事大主義とマンネリに陥ってはいないかと追及、最後にライシャワーの言論弾圧に対して「社説」を書いてもらいたいと要請した。そして大森自身は毎日新聞を去ったのである。
1965年世論調査では米国民の65%がベトナム戦争を支持していた、それもそのはず、当時アメリカの報道は軍部が出す情報をそのまま家庭に伝えていた。65年から70年にかけて、米3大ネットワークのベトナム戦争報道で死傷者が映し出されたのは、わずか3%。CBSのウォルター・クロンカイト、ニューヨークタイムスのデイビッド・ハルバースタム、UPIの二ール・シーハンはこれに疑問を持ち、突っ込んだ取材で、軍の情報とはまるで違う、アメリカの苦戦の様子を記事にた。その記事をジョンソン大統領は、「祖国の裏切り者」名指しで批判したのである。
それでもクロンカイトは、現地から届いた米軍が南ベトナム農家を焼き払う映像をありのままに放送した。報道に抗議する電話が殺到、大統領からも「アメリカの国旗に泥を塗ってくれた」と電話が入った。
1968年のテト攻勢の後、クロンカイトは泥沼化した戦況をリポートする特集番組で、次のように主張している。
「この状況から抜け出すためには勝利者としての道を捨てるしかありません。民主主義を守る努力をしてきた名誉を胸にしまい、停戦交渉を始めることが唯一の方法だと私は確信するに至りました」1969年、全米の反戦デモ参加者は200万人を越える。1971年、シーハンは「トンキン湾事件」など、アメリカの戦争介入の自作自演が書かれた秘密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手、それをニューヨークタイムズの一面で発表、さらに北爆での死傷者の8割が民間人であったということも暴いている。
ニクソン大統領はニューヨークタイムズに連載の中止を求めるが、新聞社は「中止要請を拒否する」と回答。追い込まれた大統領は記事掲載差し止めを求め、ニューヨークタイムズを連邦最高裁判所に告訴。
最高裁は大統領の掲載差し止め命令を却下して、次のように宣言している。
「報道機関は政府に奉仕するのではなく、国民に奉仕するものである」大森実の記事は、クロンカイトより3年も先んじている。毎日は世紀のスクープというべき記事を、権力におもねて引っ込めたのである。
ベトナムにおける敗戦以降、米国のメディア規制は巧妙になる。忖度に鎬を削る日本の報道は、特に国際面に関しては米「大本営」発表を一歩も出ていない。原発に関して独自の報道を貫く某紙も例外ではない.
我々は行政府を批判する最高裁を持ってはいない。
追記 ソンミ村の虐殺直前の村民の写真がある。キャプションには「Unidentified Vietnamese women and children before being killed in the My Lai Massacre」とある。強い憤りと悲しみが押し寄せる。
無抵抗の村民504人を無差別射撃などで虐殺した兵士14人は裁判で13人が無罪、カリー中尉一人が終身刑。しかし僅か3年で釈放されている。現場だけを処罰して終わらせている。だがこの虐殺計画は掃討作戦決行の前夜に決定された既定事項で、中隊指揮官が主張したことがわかっている。であれば責任は中隊は言うに及ばず、中隊を所轄する歩兵師団、米陸軍、最高司令官としての大統領にも及ぶのである。
ソンミ村虐殺事件では、偵察ヘリコプターで現場上空を通りがかった米軍下士官が、多数の死者と民間人への攻撃を目撃し、上官へ報告している。更に救助ヘリ派遣を要請して生存者の救出を行い、カリー中尉率いる小隊の狼藉を止めるため、上空から攻撃すると警告さえしている。ここに希望を見出す人たちが少なくない。
僕はそうは思わない、こうした誠実な下士官を生む国でさえ、戦争ではこのような虐殺を計画し実行するのである。
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