クラブを創る楽しみ

 僕は、クラブを幾つかつくった。最初に作ったのは、小学三年の時山岳部。町の山と丘に登る、むろん非公認。忽ちクラスの10人ぐらいが参加した。しかし計画が具体化するにつれて、抜ける者が出てきた。危ないと親に止められるのである。何人かの親から「あんたのうちには父ちゃんも母ちゃんもいないから、誰も反対しないんだ」と説教された。母は結核療養所、父は東京に事務所を構えて単身赴任して、うちには祖母と、祖母の姉妹。三人とも未亡人になっていた。家に帰って話すと、三人とも「男が一度決めたことを、やめてはいかん」と口をそろえて、計画に知恵をかしてくれた。詳しい地図も書いて磁石付水筒や双眼鏡も準備してくれた。ある二又から先は緩やかな登りになる、そこからは家があったら必ず寄って、道を確かめて水をもらい、名前を言う・・・ことなどを約束させられた。どんな草や木の実が食べられるかも、外に出て現物で教えてくれた。当日、参加者は減りにへって、ついに僕ともう一人だけになってしまった。祖母たちは朝早くから弁当を作ってくれた。楽しくも発見に満ちた一日であった。遊びに夢中になっている間に陽が傾き、慌てて山を下りた。深い林の中はすでに薄暗く、心細くなって歌をうたった。林道に出て後ろからやってきた三輪トラックが、町の入り口まで乗せてくれた。集落の景色がいつもとは変わって見えたことを覚えている。『スタンバイミー』が映画化されたとき、最後の場面は驚くほど共感できた。
 二つ目は、東京に来てからつくった草野球仲間。僕は言い出しっぺではあったが、下手でいつも9番ライトと決まっていた。大人の指導も介入もなく、球を買う金にさえ困った。ルールがその場でいくらでも変わるのが特徴だった。ピッチャー指名制は、打者が相手チームから気に入った者を選べる。守備輪番制は守備位置が毎回変わる。一方が強すぎてもルールを変えた。勝つことより楽しむことが重要だった。問題はグラウンドで、四谷にもあちこちにあった空き地がどんどん消えて、公園も野球禁止になったことだ。おかげで遠くまで出かけて場所を探した。
 最も気に入った場所は、迎賓館正面広場の芝生である。国会図書館が移転して改装を進める寸前の束の間であった。正面の門には鍵も見張りもなく、建物にも人影がなく中に入れた。正面に広い大理石造りの階段があり、立派な絨毯が敷かれ歩けば靴が埋まった。驚いて裸足で歩いたが誰もいなかった。何日か芝生で野球を楽しんだが、数日のうちに入れなくなってしまった。次に僕らが目を付けたのは慶応大学医学部構内だった。遺体安置所の脇はひと気がなくて好都合だったが、ここも数日でばれて、外苑に逃れた。オリンピックの気配もなく、草茫々の広場だらけであった。ここもやがて区営の草野球場として囲われてしまう。日曜日には商店街の草野球チームと場所取り競争で野球そのものより疲れてしまった。
 高校では意味のないこと、役に立たないことを旨とする同好会を作り、敢て顰蹙を買った。

 今、高校のクラブには入る気になれない。物は足りてユニフォームまで揃って、豊かだが、大会ばかりで大人の監視の下。詰まらなそうだが息は詰まる。もし僕が高校生ならこんなクラブをつくる。

 ディオゲネス倶楽部、シャーロック・ホームズの兄マイクロフトが会員となっている人嫌いのための会員制クラブと同じ。ディオゲネスはギリシアの哲学者。「徳」を人生の目的に据え、自らを欲望から解放自足し、何ものにも動じない心を持つため肉体的・精神的な鍛錬を重んじた。犬のような生活を理想としたため、犬儒派とも呼ばれ、酒樽で生活したこともある。アレキサンダーが「私がもしアレクサンドロスでなかったらディオゲネスになりたい」と言ったと伝えられる。学校のクラブが友情や協働などの生産的スローガンに満ちていることに挑戦するクラブである。

 立法倶楽部、模擬議員立法を試み文化祭やブログで公開する。例えば、「公職者犯罪量刑特別法」閣僚・財務官僚・経済学教授等で、違法な取引などで利益を得た者の全財産を没収して、一般国民に課せられる量刑の2倍以上の刑をその職務の重さに応じて加算する。最高刑は無期懲役、執行猶予はない。「国民不敬罪」沖縄で公務員が県民を侮辱する発言を繰り返している。国民の尊厳を汚した公職者を厳罰に処する。裁判は侮辱された者によって構成する。そのほか「駐車場緑化法」「交差点安全法」・・・既に主権者として存在している高校生の決意を示すサークル。

権力犯罪裁判所、蹴鞠同好会、偏差値打ち壊し連盟、校長等選挙管理委員会、家出相互援助機関、自転車・徒歩通学組合、学校森林化作業班、自炊食堂運営局、教員審査機構、

 自治金庫、自治会の運営に必要な資金を管理、調達する。会費を学校が授業料と同時に徴収するのをやめ、会員生徒から直接、批判や要求を聞きながら集める。卒業生などからの寄付も募る。監査は専門的知識を持った卒業生と第三者。

 独立新聞社、如何なる機関からの支援も受けず、圧力には決して屈しない新聞。購読料と個人による寄付で運営。一般商業紙が二の足を踏む問題にはすすんで挑戦する。卒業生や父母とのネットワークを存分に生かして取材、一般紙やTVを驚かせる。最大の強みは、不定期、広告なし。

 劇場共同組合、演劇や合唱や展覧会の裏方を務める。公演場所、資材調達、演出・指導の交渉、文化祭の日程に拘わりなく、芸術を振興する。
地域社、都会探検部、議員首長品質検査協会、蜂蜜社、絶対無益学会、偉人顕彰再検討委員会、境界一周会、スポーツルール改変同好会、後ろ向き同盟、他校侵入者の会、証言収集室、反五輪・嫌世界遺産学会、中間テスト初志貫徹協会、イグ学会、紙飛行機倶楽部、弁当記録院、落書き・ビラ保存会、スポーツ待合室、労働交換協同組合、狩野亨吉会、山宣会、マット・キラウ調査会、被処分者解放同盟、「賞」嫌悪者の会、昔時刻表出版会、なまけもの研究会、
 すべてのクラブは、無断欠席を妨げてはならない。

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